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北斎親子の生き方に憧れる 朝井まかて 「眩 くらら」 書評

 

今回ご紹介するのは朝井まかて氏の「眩 くらら」です。

作品自体はNHKでドラマ化されていたので知っていました。

ドラマならではの映像に力を入れた作品でしたが、時間制限がある為人物の心理描写においては物足りない部分があり一度原作を読んでみようと思っていました。

 

実際の人物像とは違うかもしれませんが、

主人公の「葛飾応為」が仕事や人間関係に翻弄されながらも

ひとりの絵師として成長していく姿が良かったです。

 

当方は恋愛モノは苦手なのですが、そういう描写はほとんどなく、

取っつきやすいと思うので興味のある方は一読をお勧めします。

 

こんな方におすすめ

  • 気風良く、雑念を削ぎ落して1つの事に夢中になりたい方
  • 江戸の風情を感じたい方

 

 

 

眩 くらら

著者 朝井まかて

出版 新潮文庫

 

 

一流の素人より三流の玄人が良い

だが、たとえ三流の玄人でも、一流の素人に勝る。なぜだかわかるか。こうして恥をしのぶからだ。己が満足できねぇもんでも、歯ぁ喰いしばって世間の目に晒す。やっちまったもんをつべこべ悔いる暇があったら、次の仕事にとっととかかりやがれ

p130より 抜粋

このセリフは北斎が弟子たちに言った言葉です。

オランダ商館から仕事が舞い込み、完成品を収める段になった時弟子の一人がやり直しをしたいと言ったのですが、北斎はそれを認めませんでした。

理由は上記の通り。

 

失敗を披露すると

失敗品を発表する ⇒ 信用を失う ⇒ 仕事を失う ⇒ 無難なやり方になる ⇒ 個性がなく差別化できない

という悪循環が見えています。

 

やり直しをしたいという心理もわかるし、一回で仕上げるという心理もわかります。

 

後世を生きている当方からすると失敗品でもいいので発表してほしいですね。

というのも、当時の人からすれば失敗でも現代の人からすると貴重な資料になるからです。

 

例えば歴史上の人物だったらその人が何を考えていたかは残された資料を見ればわかります。

しかし昔の庶民がいったい何を考えていたのかはまず見当がつきません。

家が農家だったり自営業の方は、仕事のやり方や生活の知恵から「こんなこと考えていたんじゃないかな?」と

推測できますが、サラリーマン世帯だとまず無理です。

 

かつて北斎が外国人相手に庶民の生活を描いた作品を2つ納めに行ったのですが、

相手方は1つ分しか払わないと言い出し、怒った北斎は2冊とも持ち帰ったことがありました。

 

妻の小兎は1つだけでも払ってくれるんだからいいじゃないかと言ったのですが、

北斎は庶民の暮らしぶりなんて当たり前すぎて残った1冊を誰が買うのか?と、頑として譲りません。

 

結局はオランダ側が2つとも買い取ってくれたのですが、

現代人の当方からするとその時代では当たり前であっても

時代や場所が変われば貴重な価値が出てくるという事を感じました。

 

ゴッホだって本人が無くなってから作品が評価されましたし、

出川哲郎だって芸風は20年以上前から変わっていないのに、

最近人気者になりました。

 

現代の日本人にすれば地方の暮らしより都会の便利な暮らしの方が価値があると思っています。

しかし訪日外国人観光客は地方の日本人の暮らしの方が面白く感じています。

 

人の評価なんて移ろいやすいのです。

その時だけの価値に縛られず、自分が良いと思った物を誠実に発表していく事が

何より重要ではないでしょうか。

 

 

 

シンプルになるほど冴える

シンプルの項目を表す図

自分に必要なものを知るためのシンプルさ

 

お栄の考え方や人間関係がシンプルになるほど筆が冴えわたっていくのが

この本の特徴かもしれません。

 

人間は若い時は誰でも好奇心とか雑念が多いですが、

経験が増えるにしたがって自分に必要なもの・要らないものがわかってくるので

シンプルになります。

 

絵師と言えば最初イラストレーターなのかなと思っていましたが、

本を読み進めて行くうちに画家に近い職業だと思いました。

という事は、技術だけじゃなく創作能力も磨かなければいけないので、

人間としての経験値がものを言いますね。

 

シンプル ⇒ 雑多 ⇒ シンプル

 

という過程を経て自分に必要なものだけ残るという事が、

本の中にはしっかりと書かれています。

 

その流れを踏まえるとこの作品の面白さが増します。

 

人間関係の卒業 → 絵を完成させる という図式

物語が進行していくにしたがって

・小兎の逝去

・善次郎の逝去

・北斎の逝去

・弟の家で隠居

と人間関係が変わっていきます。

そしてその都度、お栄は絵を完成していくのですが、

かつてオランダ商館の川原から言われた

「何かを目指そうとしている絵」の何かに近づいていきます。

 

何かとは感情を優先した日本画でもなく、見えた物を見えた通りに描く西洋画でもないお栄自身の絵です。

お栄は線描の技術も優れていますが、彩色に優れていて本人もそれに付随する作業が好きという設定になっています。

ただ、そんなお栄が最終的に完成させたこの本の表紙にもなっている「吉原格子先図」は、

カラフルではなく全体的にモノトーンなので、そのギャップが面白いですね。

 

安政の地震で画材を失ったという事もありますが、晩年のお栄にはそれを補って余りある感性を持ち合わせていたという解釈もできます。

 

あこがれる生き方

現代人は何かと多忙で、さらに「あるべき姿」という無言のプレッシャーも手伝い、

ただ生活するだけでも息苦しいです。

 

その点、北斎親子は良いですね。

よく言われている93回引っ越したとか、借金取りが来ても「そこの財布から勝手に持って行け!」と言い放ったり、

世間体なんて気にしません。

 

そしてお栄自身は北斎の娘なのに何一つ受け継いじゃいないことを気にしていますが、

いやいや、十分北斎イズムは受け継いでいるし、絵師としての才能も受け継いでいると思います。

 

その魅力的の理由を考えてみると

・髪の毛や着る物に頓着しない(女々しくない)

・でも情がある(親の介護、なんだかんだで甥っ子を気に掛ける)

・お金では動かない(版元との付き合いは義理と人情を重んじる)

・江戸市中を走り回る時の躍動感(火事を見るのが好き、善次郎の野辺送りに駆け付けるなど)

が大きいかなと思いました。

 

江戸っ子の気風が良いのは、

江戸にはいろんな人が訪れるので細かい話をしても伝わりにくいとか、

火事が多いのでいつ死んでも不思議じゃなく、ウジウジしててもしょうがないといった考えが背景にあると思います。

それを作者の朝井氏が上手く物語に昇華していますね。

 

便利だけど複雑な現代より、貧しいけど自由な江戸時代の方が魅力的に写るのは不思議ですね。

 

 

まとめ

一流の素人より三流の素人の方が良い

シンプルになるほど冴える

憧れる生き方

 

短いレビューで伝わったかどうかわかりませんが、

面白い作品なのでぜひ読んでみてください。

 

余裕のある方は映像作品の方もご覧くださいね。

ありがとうございました。

 

 

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    shige

    年齢 アラフォー

    住居 愛知県

    職業 個人投資家 ブロガー

    町工場勤めから2020年本格的に個人投資家へ転身。 中長期投資なのでファンダメンタルズを重視しています。

    このブログで自分の成功体験・失敗談・ノウハウを公開していきたいと思います。初心者の方に参考にしていただけたら嬉しいです。また、生き方や生活に関する記事もUPしていく予定です。よろしくお願いします。

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